大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成8年(わ)34号 判決

裁判所書記官

小倉隆二

本籍

福岡県田川市大字伊加利九二二番地

住居

右同所

会社役員

成定定利

昭和一六年九月二〇日生

主文

被告人を懲役一年六か月及び罰金六〇〇〇万円に処する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、肩書住居地に居住し、「成定建設」の名称で建築業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成三年分の実際総所得金額が六五八九万七一五二円であったにもかかわらず、平成四年二月二四日、福岡県田川市新町一一番五五号に所在する所轄の田川税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が八三四万二四七五円で、これに対する所得税額は九七万七一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二八〇〇万六〇〇〇円と右申告税額との差額二七〇二万八九〇〇円を免れた

第二  平成四年分の実際総所得金額が二億四一一七万二三一〇円であったにもかかわらず、平成五年三月九日、前記田川税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が九四五万五二八〇円で、これに対する所得税額は一三〇万二三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億一五六二万九五〇〇円と右申告税額との差額一億一四三二万七二〇〇円を免れた

第三  平成五年分の実際総所得金額が二億一〇七六万六五〇二円であったにもかかわらず、平成六年三月一四日、前記田川税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が一一四九万二七〇〇円で、これに対する所得税額は一八四万六二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額九九〇四万五〇〇円と右申告税額との差額九七一九万四三〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

(括弧内の甲、乙の別及び番号は検察官の証拠請求番号を示す。)

判示全部の事実について

一  被告人の公判供述、検察官調書(乙13、14)、質問てん末書(乙1ないし10)

一  小川トキワの検察官調書(甲5)

一  成定征子の検察官調書謄本(甲9)

一  脱税額計算書説明資料(甲1)

一  電話聴取書(甲13)

判示第一の事実について

一  脱税額計算書平成三年分(甲2)

判示第二の事実について

一  脱税額計算書平成四年分(甲3)

判示第三の事実について

一  脱税額計算書平成五年分(甲4)

(法令の適用)

罰条 判示第一ないし第三につき、いずれも所得税法二三八条一項、二項

刑種の選択 判示第一ないし第三につき、いずれも懲役刑と罰金刑の併科を選択

併合罪加重 平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)四五条前段

懲役刑につき 改正前の刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき 改正前の刑法四八条二項

執行猶予(懲役刑につき) 改正前の刑法二五条一項

労役場留置 改正前の刑法一八条

(量刑の理由)

本件は、身一つで事業を起こした被告人が、それがようやく軌道に乗り、蓄財することができるようになった後である平成三年分から平成五年分の所得について、所得税の確定申告をする際、実際の総所得金額よりもことさらに著しく少ない所得金額を申告して多額の所得税を免れたという事案である。

被告人が免れた税額は三年分合計で二億三八〇〇万円余りの巨額に上り、ほ脱率も通算で九八パーセントを超える点で、本件犯行は悪質なものであると言わざるを得ない。被告人は、本件犯行の動機として、同業者との横並び意識、労災対策及び老人福祉施設の設立等を挙げているが、その背後には被告人の納税意識の欠如を看取できるのであって、これらの動機を取り立てて被告人に有利な情状とすることはできない。また、本件のような脱税事件は、申告納税制度を採用している我が国の税制の根幹を揺るがしかねないものであり、この種事件に対する一般納税者の法感情には厳しいものがあると考えられ、強く非難されるべきものである。そうすると、被告人の刑事責任は重い。

他方、被告人は、前科、前歴が一切なく、本件犯行を素直に認めてこれを深く反省し、判示の三年間の所得について修正申告を行い、所得税の本税、重加算税及び延滞税等を完納している。また、被告人は、本件犯行の発覚後、事業を法人化し、税理士に経理を委ねることによって、適正な会計処理に務めており、本法廷においても二度と同じ過ちを繰り返さないことを誓約している。

これら被告人にとって酌むべき事情を考慮の上、主文のとおりの刑を量定した。

(検察官 野下智之、弁護人・私選 森統一)

(求刑 懲役一年六か月及び罰金六〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 陶山博生 裁判官 鈴木浩美 裁判官 柴田寿宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例